【世界史エッセイ】『アン=シャーリー』と第一次世界大戦〜これはバルカン半島の隅っこで起こっているような小さな争いじゃない〜

春休みです。

4月に、私自身は新しい学校への転勤、息子は年長組への進級を控え、3月末は地元の新潟に戻って家族で過ごしています。

今日はせっかくの土曜日ですが、新潟は天気があまり良くないので、外には出かけられず、祖父母の家に来ています。

時間ができたので、『アン=シャーリー』と第一次世界大戦について書いてみようと思います。

4月から、NHK『アン・シャーリー』の放送が始まります。

『グリーン・ゲイブルズのアン』(邦題『赤毛のアン』)は、私の大好きな作品なので、子どもにぜひ見せたいと思います。

最近は、5歳の息子に、見せたくないなと思うような番組やコマーシャルが多いように感じられ、見せたいと思う番組があまりなかったので、とても嬉しいです。家族で毎週見れたらいいですね。

『グリーン・ゲイブルズのアン』(邦題『赤毛のアン』)と書きましたが、『赤毛のアン』は、親しみやすく、良い題だと思います。一方で、原作のイメージを大切にするには、『グリーン・ゲイブルズのアン』でいいかなと、愛読者としては、個人的に思っています。

なので、今回のアニメが『赤毛のアン』ではなく、『アン・シャーリー』というタイトルで来たのは、とても良いと思っています。

イメージが、より原作に近づいたかなと思います。

私は中学生の時に第一巻を読み、その後高校生の時に続編を図書室で読みました。

英語版も、全部ではありませんが、数冊持っています。

高校に入って、ちょうど、同じ作品が好きな読書好きの女子と出会ったんですよ。

意気投合して、感想を言い合ったりしました。それで、続編を読むようになりました。

さて、今回、『アン・シャーリー』というタイトルで来たのは、原題に近づけたかった意外に、もう一つ理由があるのではないかなと思っていて、それは、第一巻よりも先まで描かれるのではないかなという、期待も込めた憶測です。

このタイトルなら、続編を全部アニメ化しても、同じタイトルで通せそうですよね。

続編が10巻ほどあるのですが、最初の続編『アヴォンリーのアン』(邦題『アンの青春』)では、アンが教師になります。

アンの成長が描かれ、何より教師としての活躍や試行錯誤が描かれる、とても素敵な一冊です。

その後、続編で、結婚や出産、家族の物語が語られるのですが、『イングルサイドのリラ』(邦題『アンの娘リラ』)では、衝撃的な展開を迎えます。

何度か授業でお話ししたこともあるのですが、アンの息子の一人、ウォルターが、第一次世界大戦に従軍し、戦死します。

戦争が始まった知らせが届いた場面を、ちょっと引用してみましょう。

"Aren't you painting it rather strong, Walter?" asked Harvey Crawford, coming up just then. "This war won't last for years—it'll be over in a month or two. England will just wipe Germany off the map in no time."

"Do you think a war for which Germany has been preparing for twenty years will be over in a few weeks?" said Walter passionately.

"This isn't a paltry struggle in a Balkan corner, Harvey. It is a death grapple. Germany comes to conquer or to die. And do you know what will happen if she conquers? Canada will be a German colony."

「ウォルター、少し強く言い過ぎじゃないか?」とその時、ハーヴィー・クロフォードが声をかけた。「この戦争は何年も続かないよ—1ヶ月か2ヶ月で終わるさ。イギリスがドイツを地図から消し去るさ。」

「ドイツが20年も準備してきた戦争が数週間で終わると思うか?」とウォルターは情熱的に言った。

「これはバルカン半島の隅っこで起こっているような小さな争いじゃない。これは死闘だ。ドイツは征服するか、死ぬかだ。もしドイツが勝ったら、カナダはドイツの植民地になるんだ。」

出典:The Project Gutenberg E-text of Rilla of Ingleside, by Lucy Maud Montgomery
邦訳は、意訳を含む参考訳(Chat GPTの力を借りての拙訳)。

児童文学のワンシーンとは思えない、生々しい会話です。

「これはバルカン半島の隅っこで起こっているような小さな争いじゃない」とウォルターが言います。

この後、彼は従軍します。

世界史の授業で

「アンの子どもが、なぜ、第一次世界大戦に出征しなければならないのか、わかるかな?」

と発問したことが何度かあるのですが、これまでに答えてくれたのは、読書好きの一人だけだったので、最近はあまりこの話題に触れなくなってしまいました。

アニメが始まるので、今年度は取り上げてみようかな。

アンの子どもが、なぜ、第一次世界大戦に出征しなければならないのか。

みなさん、理由はお分かりでしょうか。

もう一場面、引用してみます。先ほどの続きです。

"I don't see why we should fight England's battles," cried Rilla. "She's quite able to fight them herself."

"That isn't the point. We are part of the British Empire. It's a family affair. We've got to stand by each other. The worst of it is, it will be over before I can be of any use."

「どうして私たちがイギリス(England)の戦争に参加しなければならないの?」リラは叫んだ。「自分で戦えるじゃない。」

「それが問題じゃないんだ。私たちはイギリス帝国(British Empire)の一部だ。家族のようなものだよ。お互いに支え合わないといけないんだ。最悪なのは、俺が役に立つ前に戦争が終わってしまうことだ。」

出典:The Project Gutenberg E-text of Rilla of Ingleside, by Lucy Maud Montgomery
邦訳は、意訳を含む参考訳(Chat GPTの力を借りての拙訳)。

これは、リラと、彼氏のケネスの会話です。

「イギリスは自分で戦えるじゃない。」

私がこの場面に居合わせたら、ほんとそれな(笑)、と言いたくなります。

アンたちは、カナダ人です。

舞台となっているプリンスエドワード島はカナダですね。

アンたちがカナダ人であることがわからないと、 「アンの子どもが、なぜ、第一次世界大戦に出征しなければならないのか、わかるかな?」という質問に答えることはできません。

意外にも、アメリカの作品だと思っている生徒も多く、「アメリカが参戦したから」という、仮にアンの家族がアメリカ人だったら、とてもいい答えになる意見を言う生徒もいました。

問いの答えは、彼氏がリラに

We are part of the British Empire.

と言っているように、当時のカナダがイギリスの自治領だからです。

カナダが1867年にイギリスの最初の自治領になったことは、世界史のセンター試験でも必須の知識です。

第一次世界大戦が始まると、カナダの若者はイギリス軍として従軍しました。

史実では、約60万人が従軍し、10人に一人にあたる約6万人が戦死しています。

当時のカナダの人口が800万人程度だったようですので、この従軍規模は相当なものです。

作者のモンゴメリが受けた衝撃も相当なものだったのでしょう。そうでなければ、作中で、アンの息子が戦死するという、衝撃的で悲しい物語にはならなかったのではないでしょうか。

第一次世界大戦という経験は、カナダが、本国からの政治的な独立求めるきっかけとなりました。1931年のウェストミンスター憲章で、カナダは、オーストラリア、ニュージーランドなどとともに、自治領ではなく、自立した主権国家として認められることになりました。

近現代の文学には、実際の歴史を背景に描かれたものが少なくありません。

歴史総合や世界史探究の授業で、少しでも、そうした作品を紹介していけたらいなと思っています。

4月から、5歳の息子と一緒に、家族で『アン=シャーリー』を見たいと思います。

アンが結婚し、アンの息子が世界大戦で戦死することは、アニメで描かれなかったとしたら、息子が大きくなって、自分で原作を読む日が来るまで、黙っていることにしようかな。